東京高等裁判所 昭和34年(ラ)836号 決定
民事訴訟法第七百三十三条、民法第四百十四条第二項は債務者の代替的作為義務の強制執行に関する特別規定に外ならないから、同条によつて第一審の受訴裁判所が債権者の申立によりなすいわゆる建物の収去を命ずる決定は、同裁判所が執行機関としてかかる代替的作為義務を命じた債務名義の執行としてなすに過ぎない。従つてこの場合当該裁判所の審査し得べき権限の範囲は一般の強制執行開始の要件(例えば履行期の到来、債務名義の送達等)及び代替執行の要件(作為義務の内容が代替執行をなすに適合するや否や等)の存否に限り、その基本となつた債務名義の実体上の請求権の有無に及ばないと解さなければならない。してみるとかような決定に対する抗告も前示執行方法たる手続上の瑕疵を理由としてこれをなすべきもので、債務名義に表示する本案請求権の存否についての主張は許されず、後者は専ら請求異議の訴によるべきものと解すべきである。尤も一般強制執行にあつては手続上の瑕疵を主張するには方法の異議(民訴第五四四条)により、右申立が却下せられた場合に更に即時抗告を申立て得ることとなつているに対し、代替執行の方法としてなす授権決定に対しては直ちに即時抗告をなし得る等不服申立の方法に若干の差異あるも、後者は裁判所が債務者を審訊してなす決定(民訴法第七三五条但書)たるに鑑み直ちに即時抗告をなし得ることとした法意であることを窺えるから、右不服申立の方法に差異のあることは両者が本質的に異なるものとする根拠とならない。
ところで抗告人は本件債務名義たる和解調書及び収去命令に表示された建物は債務者たる抗告人の所有に属せず訴外蛭間仁平の所有であつて抗告人には収去義務はないとして原決定の違法を主張するけれども、かかる事由は抗告適法の理由にならないこと前説示にてらし明らかであつて、若し右建物が同訴外人の所有であるとすれば、同訴外人において債権者を相手方として強制執行の目的物に対する第三者異議の訴を提起する等の方法により救済を求むべきである。
(柳川 坂本 中村)